京都盆地南端における低タンパク質米の高光合成栽培管理京都盆地で最高品質の低タンパク米を育てる方法|水管理・施肥・密植・品種の最適化戦略京都盆地南端における低タンパク質米の高光合成栽培管理

最終更新日 2025年2月28日 by やまふじ農園

京都南部の盆地環境で水稲の光合成を最大化しつつ玄米タンパク質含有率を低く抑えるには、水管理・施肥・密植度・品種を総合的に調整する必要があります。以下、それぞれのポイントと京都の気象条件を踏まえた最適管理方法を提案します。

水管理:間断灌水と適切な中干し

京都の夏は高温多湿であり、登熟期(水稲の実り期)に水不足が起こると白未熟米(乳白粒)や胴割れ粒が増加し、玄米品質を損ねる一因となります ()。そのため水管理は登熟期まで見据えて計画することが重要です。生育中期には適度な中干し(田の一時的な乾燥)を行いましょう。中干しにより土壌を一時的に酸化状態に戻すことで、土中の有害ガスを抜き、根に酸素を供給して根群の活力を高めます ()。これにより根が地中深く張り、耐倒伏性・耐暑性が向上します。また中干しには土壌中のアンモニア態窒素の放出を抑制して過剰な分けつ(無効分げつ)を防ぐ効果もあり ()、無駄な茎葉を減らして光合成を効率化するのに役立ちます。

ただし近年は猛暑・少雨も増えており、中干しが過度になると土壌に大きな亀裂が入り、根を傷つけたり保水力を低下させたりします ()。その結果、肝心の登熟期に田面の隅々まで水が行き渡らず水不足となり、品質低下を招きかねません ()。特に京都盆地は夏の猛暑日が多く(7~9月の猛暑日数は主要都市中最多の年間15日以上 ([PDF] 気象庁公表の平年値について – 京都市))、熱波による登熟障害(白濁米)リスクがあります ()。中干しは土壌にひび割れが入らない程度の「軽い中干し」に留め, 以降は圃場が極端に乾かないよう間断灌水を取り入れましょう。実際、一定の間断灌水(Alternate Wetting and Drying; AWD)を行っても収量は慣行湛水と同等以上に維持でき ( Effect of Alternate Wetting and Drying Irrigation on the Nutritional Qualities of Milled Rice – PMC )、精米中のデンプン・タンパク質含量にも大きな差が出ないことが報告されています ( Effect of Alternate Wetting and Drying Irrigation on the Nutritional Qualities of Milled Rice – PMC )。つまり適度な間断灌水による省水管理は光合成量(収量)を落とさず品質も維持可能と言えます。

加えて、深水管理(田植え後しばらく深めの水位で栽培)も有効な場合があります。田植え後2週間頃から中干しまで意図的に深水(10cm以上)にすると、無効分げつが抑えられ養分が主茎に集中し、粒が大きく心白の発現が良い米(酒米)になるとの報告があります (PowerPoint プレゼンテーション) (PowerPoint プレゼンテーション)。深水により稲の過剰な茂りを抑制できるため、京都のように日照時間が比較的短く(京都市の年間日照約1,800時間 ([PDF] 冬には少ないという瀬戸内式気候 ・ 寒暖の差が大きい内陸 … – 京都市))湿度の高い環境でも、風通しの良い適度な稲姿を保てます。ただし深水管理は収量低下を招く場合もあり(深水区で収量が慣行より低下した事例 (PowerPoint プレゼンテーション))、目的によって採用を検討します。基本は中干し+間断灌水で根を健全に保ちつつ、猛暑期~登熟期には常に田面に水分を確保して稲を乾かしすぎないことです。これにより強い根と十分な蒸散冷却が確保され、酷暑下でも光合成能力を維持し品質低下を防げます。

施肥管理:窒素抑制とバランス肥培

窒素(N)施肥の管理が玄米タンパク含有率を左右する決定要因です。一般に窒素肥料を増やせば収量は増えますが玄米中のタンパク質も増加するため、低タンパク米を目指す場合は過剰施肥を避けます (Response of Rice Yield and Grain Quality to Combined Nitrogen Application Rate and Planting Density in Saline Area)。特に穂肥(出穂前の追肥)を遅く施したり、出穂後に施肥を行ったりすると玄米タンパク質が上昇するので厳禁です ()。実際、農業現場の指針でも「玄米の蛋白含量を上げないよう、穂肥の2回目は遅れないよう施用するとともに、出穂以後の肥料は絶対に施さない」とされています ()。そこで、施肥は基肥と早めの穂肥(幼穂形成期まで)に限定し、登熟期には窒素が残らないようコントロールします。

具体的には、総窒素量を減らしつつも前半に葉養分を確保する工夫が必要です。京都盆地南部で良食味米として広く作られるコシヒカリ等でも、高品質を狙う場合は慣行より窒素を減らし、10aあたり成分量で5~6kg程度(基肥3kg・穂肥2kgなど)に抑える例があります (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。この程度の施肥で目安タンパク6.2%程度に収めることができます (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。酒米などさらに低タンパクを要する場合は、10aあたり窒素3~5kg(30~50kg/ha)程度の極めて控えめな施肥設計とします(山田錦の産地では0.5~0.6kg/10a程度の少肥を推奨する地域もあります ([PDF] 酒米品種「山田錦」の育成経過と母本品種 「山間穂J))。前半に葉色を維持するため、緩効性肥料や有機質肥料を活用すると良いでしょう。穂肥としてコーティング肥料を活用し、一度に施肥してもゆっくり効かせれば玄米品質向上が期待できます ()。例えば穂肥窒素の50%以上を被覆尿素などに置き換えることで、速効肥料を分割施用した場合と同等の収量を保ちつつ品質(食味値)の向上が図れます ()。また有機質主体の肥料は無機態窒素の供給を穏やかにするため、玄米タンパクを低く抑える効果が認められています ()。実際、福井県の事例では有機質肥料主体の追肥によって玄米タンパクが低下し食味が向上したと報告されています ()。以上より、速効性の高い肥料は出穂前半までに控えめに施用し、それ以降は肥効が緩やかな有機肥や被覆肥料で繋ぐのが理想です。

窒素以外の要素もバランス良く施用します。**カリウム(K)**は光合成産物の転流を促進し登熟を助けるため欠かせません。高温下では呼吸消耗が増えるため十分なデンプン蓄積にはKの役割が大きく、不足すると登熟不良(未熟粒増加)や玄米タンパク比率の上昇につながります。また京都は夏季に病害虫発生も多いため、ケイ素(Si)資材の施用も有効です。ケイ素は稲体を強化し耐倒伏性を高めるとともに、葉面をコーティングしていもち病などの抵抗性を高めます (Silicon Fertilizer Addition Can Improve Rice Yield and Lodging …)。ケイ素吸収により稲の姿勢が立ち、葉が直立して光を効率よく受けられる利点もあります (Silicon Fertilizer Addition Can Improve Rice Yield and Lodging …)。これらK・Si・P(リン酸)を適切に補給し養分バランスを整えることで光合成効率を維持しつつ健全な登熟を図ります。とりわけ京都のような高温多湿環境では病害リスク管理が品質確保に直結するため、過剰窒素を避けつつカルシウム・ケイ素で組織を強化しておくことが有効です。

密植度:光エネルギー効率とタンパク質の関係

植え付け密度(株間・条間の設定)は稲の群落光合成効率と養分分配に影響します。まず光合成を最大化するには、群落全体で太陽光を漏らさず受け止める適度な葉面積が必要です。密植度が低すぎると初期に地表に光が当たって無駄になる一方、過密に植えすぎても上層の葉が下層を陰にしてしまい群落全体の光合成効率はかえって低下します。最適な葉面積指数(LAI)を得るために、適正な株密度・分げつ数のバランスを狙います。一般的な良食味米栽培では1平方メートルあたり20~25株程度(条間30㎝×株間13~16㎝程度)が標準的です。この密度で分げつを含め穂数約400本/㎡を確保すると登熟も安定し、玄米タンパク含有率6.6%以下・整粒歩合85%以上といった高品質目標を達成しやすくなります (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。実際、新潟県の高品質米品種で穂数400本/㎡、籾数30,000粒/㎡、収量600kg/10aという栽培指標の下、玄米タンパク6.6%以下を維持できた例があります (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。一方でより低タンパクを追求する酒米栽培では、やや疎植(低密度)にして各株が十分な養分と光を得られるようにする方法がとられます。たとえば最高級酒米の山田錦では1坪(3.3㎡)あたり50株程度、つまり約15株/㎡というかなり疎植の密度が推奨されています (稲 作 気 象 台 情 報)。これは株間を広げることで無理な分げつをさせず籾一粒あたりの養分蓄積を高める狙いがあります。同時に移植時期を通常より遅らせ(平地で6月上旬移植)ることで出穂を遅延させ、猛暑期を避けて登熟させる意図もあります (稲 作 気 象 台 情 報)。

密植度はタンパク質含有率にも影響します。株数が少なすぎると各個体が土壌中の窒素を過剰に吸収しがちで、一粒あたりのタンパク含有量が増える恐れがあります。一方、ある程度の密植により土壌窒素を植物間で奪い合う状態にすると、各穂への窒素過多が抑えられ玄米タンパクが低下しやすくなります。この効果は「籾生産効率」として定義されており、単位面積あたりの籾数を稲体内窒素量で割った値が大きいほど、すなわち限られた窒素で多くの籾を作ったほど各籾のタンパク含量は低下します ()。そのため施肥を絞る場合には適度に密植して**「少ない肥料で多くの籾」を実現するとタンパク低減に有利です。一研究では、窒素施用量を一定とした条件下で植栽密度を上げると玄米のタンパク含有率がわずかに低下したと報告されています (Response of Rice Yield and Grain Quality to Combined Nitrogen Application Rate and Planting Density in Saline Area)(逆に窒素を増やすとタンパク質は大幅上昇)。ただし過度の密植はデメリットもあります。日照や風通しの悪化で登熟不良(未熟粒)や病害が増え、精米歩合(胴割れ)や食味が低下する可能性があります (Evaluating rice lipid content, yield, and quality in response to …)。実際、高密度栽培は外観品質や食味の低下(粘り低下など)につながるとの報告もあります (Response of Rice Yield and Grain Quality to Combined Nitrogen Application Rate and Planting Density in Saline Area) (Response of Rice Yield and Grain Quality to Combined Nitrogen Application Rate and Planting Density in Saline Area)。したがって密植度はやや疎植寄りの適正範囲に設定するのが望ましく、「低肥料・中密度」で光合成を最大化しつつタンパク質を希釈する戦略が有効です。目安として、京都の盆地で栽培する場合は1㎡あたり18~22株・1株あたり2~3本植え程度を基本とし、生育状況に応じて間引き分げつを促すか(深水などで調節)、あるいは穂肥時期に調整を行います。適正な密度で栽培すれば、収量目標を達成しつつ玄米タンパク含量を6~7%台に抑える**ことが可能になります (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。

品種選択:低タンパク米に適した品種と特徴

品種選びも重要です。低タンパク質米の代表例は酒造好適米と呼ばれる酒造り専用品種で、一般的に大粒で心白(デンプンの中心部の白濁)があり、タンパク質含有率が低い特徴を持ちます (京都産の酒米「祝(いわい)」|伏見の酒について|伏見酒造組合)。京都の気候に適し低タンパク栽培に向く品種として、以下が挙げられます:

  • 祝(いわい) – 京都府固有の酒造好適米品種です。1933年に京都府で育成され、吟醸酒向きの良質米として知られます (京都産の酒米「祝(いわい)」|伏見の酒について|伏見酒造組合)。玄米タンパクが少なく、精米しやすい粒質で酒造適性が非常に高いのが特徴です (京都産の酒米「祝(いわい)」|伏見の酒について|伏見酒造組合)。かつて収量が低く倒伏しやすい欠点から一時生産が途絶えましたが、近年復活し京都の酒蔵で重用されています (京都産の酒米「祝(いわい)」|伏見の酒について|伏見酒造組合)。祝は京都の風土で品質を発揮しやすく、低タンパク栽培との相性が良い品種です。
  • 山田錦 – 全国的に「酒米の王様」と称される最も著名な酒造好適米です。兵庫県で開発された品種ですが、京都府南部の気候(夏の高温・秋の適度な昼夜温度差)でも栽培可能です。粒が大きく心白発現が安定しており、脂肪やタンパク質含有率が低くデンプン質が多いため、精米耐性・吸水性・溶解性に優れます (Yamada Nishiki | Sake Glossary) (Yamada Nishiki – Kuraichi)。玄米の典型組成は炭水化物72%、タンパク質8%程度とも言われ (Yamadanishiki Reigns Supreme Among Sake-Brewing Rice Varieties)、他の一般品種に比べて粗タンパク含有率が明らかに低いとの研究報告もあります (Spatial Distribution and Characteristics of Protein Content and …)。そのため高度精白(50%以上の精米歩合)でも雑味が出にくく、吟醸酒でも雑味のない上質な酒に仕上がります (Yamada Nishiki | Sake Glossary)。ただし稈長が長く倒伏しやすいため、前述のように少肥・広植・徹底した水管理が必要です (Yamada Nishiki | Sake Glossary)。高品質な山田錦を作るには高度な栽培技術と昼夜の寒暖差が必要とされます (Yamada Nishiki | Sake Glossary)。京都盆地南端は真夏は高温ですが秋口には夜温が下がる日もあり、また粘土質土壌の水田が多い点は山田錦栽培に適しています (Yamada Nishiki | Sake Glossary)。そのため十分管理を行えば京都でも山田錦で低タンパク高品質米を収穫可能です。
  • 京の輝き – 京都府が近年開発した新しい酒造好適米品種です(平成27年デビュー)。粒が非常に大きくタンパク含有量が低いことが特徴で (神藏 – 愛上日本酒 LOVE&SAKE)、これまで京都になかった「ふくらみのある柔らかな味わい」の酒を醸すことができます (神藏 – 愛上日本酒 LOVE&SAKE)。耐暑性・耐倒伏性にも優れているため京都の高温環境下でも作りやすく、今後低タンパク米品種の本命になることが期待されています。
  • 五百万石 – 新潟県生まれの酒米ですが、比較的早生で暑さにも比較的強いため京都でも栽培例があります。粒は中程度で心白も小さめですが、タンパク質は低く抑えやすい品種です。酒質は淡麗になりやすく、京都の伏見の水質(軟水)とも相まってすっきりした酒になりやすい傾向があります。登熟期間がやや短いため猛暑でも未熟米を出しにくい利点があります。
  • コシヒカリ・ヒノヒカリ 等 – 一般的な飯米品種も、栽培方法次第で低タンパク米になり得ます。例えば新潟県のコシヒカリ系統「こしいぶき」では、密植21株/㎡・施肥5kgN/10aという条件で玄米タンパク質6.2%を達成しています (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。飯米品種はもともとタンパク質がやや多め(玄米で7~8%程度)ですが、少肥栽培でタンパク質基準値以下に抑える手法も確立されています (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。京都府でも近年開発の「キヌヒカリ」は食味良好ですがタンパク質が比較的低めの傾向があり、高温登熟下でも品質を維持しやすい特徴があります。こうした飯米品種を低タンパク狙いで栽培する場合は、極力タンパク基準値(6.4%程度)を下回るよう前述の肥培管理を徹底します (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。

以上のように、品種によって適正な栽培条件や得られるタンパク含有率は異なるため、京都の気候と目指す米質に合わせて選択します。酒造用途であれば祝・山田錦・京の輝きなどを、飯米用途であればコシヒカリ系の低タンパク栽培を目指すとよいでしょう。それぞれの品種特性(成熟期、倒伏抵抗性、適応気候)を踏まえ、気温・日射条件にマッチしたものを選ぶことが大切です。

京都の気象条件を踏まえた総合提案

京都盆地南端の夏季は気温・湿度ともに高く(8月の平均最高気温31~32℃・平均最低気温24℃前後、湿度も朝晩で80%以上になる日が多い (京都市 における 8月の気象、平均気温(日本) – Weather Spark))、日中は強い日射がある一方で雲量も多く不安定な天候です (京都市 における 8月の気象、平均気温(日本) – Weather Spark)。また秋口には台風や局地的大雨のリスクもあります。これら気象条件に対応するため、以下の総合的な栽培管理を行います:

  • 作期の調整: できるだけ登熟期の酷暑を避けるよう作型を設定します。例えば早植えしすぎて出穂が7月中旬~下旬になると、ちょうど一年で最も暑い時期に登熟が重なり品質低下を招きます ()。そこで田植え適期を平年よりやや遅らせ(京都平地で6月上旬~中旬頃)て出穂期を8月中下旬に持ってくることで、登熟を9月上旬~中旬のやや気温が落ち着いた時期にずらします (稲 作 気 象 台 情 報)。山田錦の例にならえば「出穂期を遅らせ高温障害を回避」する効果が期待できます (稲 作 気 象 台 情 報)。ただし極端に晩生にしすぎると収量低下や成熟遅れのリスクもあるため、地域の平年気温を踏まえバランスを取ります。
  • 水管理: 生育初期から中期にかけては通常どおり湛水管理し、中干しを適期に実施します。ただし乾燥しすぎに注意し、土壌がひび割れない範囲で短期間の中干しに留めます ()。中干し後は間断灌水で土壌に酸素を供給しつつ根を健康に保ちます。出穂前後~登熟期は常時浅水を保つようにし、特に酷暑日の午後には落水しないよう注意します。湛水には気温を安定させる効果もあり、根域の温度上昇を抑えられます。猛暑時には用水路の水温も高いですが、それでも乾土になるよりは遙かに涼しく、稲体の熱ストレス軽減に寄与します。加えて高湿環境では蒸発散が滞りがちなので、葉面温度を下げるためにも十分な水分供給が必要です。台風接近時のみ倒伏防止のため落水しますが、それ以外は登熟完了まで土壌水分を切らさない管理が肝要です ()。必要に応じて夕方や夜間に冷水を浅く入れる「夜間冠水」も検討します(夜温が高い年は水温で冷却することで乳白粒発生を軽減できる可能性があります)。
  • 施肥管理: 基肥でリン酸やカリウムをしっかり入れて初期生育を促し、分げつ期~穂ばらみ期までに窒素を使い切る施肥設計とします。具体的には分げつ促進のための基肥窒素と、登熟のための穂肥窒素を合わせて慣行の7割程度に減らし、時期も穂ばらみ期(幼穂長約5mm)までに施用完了します。穂肥は前述の通り被覆尿素や有機肥料を活用し、出穂後に急激に無機態窒素が増えないよう緩やかに効かせるのがポイントです ()。こうした工夫で葉の光合成能力を維持しつつ籾への過剰な窒素移行を防ぎます。加えてカリウムを穂肥と同時期までに十分施し(例:穂肥と同量程度のK₂Oを施用)、登熟期の光合成産物転流を円滑にします。ケイ酸質肥料(湛水直播なら植え付け直後、移植なら追肥などで投入)も忘れず入れ、台風シーズン前までに茎葉を強化しておきます。京都は病害虫が発生しやすいため、防除も適期に行い葉を健全に保つことが結果的に光合成率維持につながります。特にいもち病の発生は葉面積の喪失と未熟粒・タンパク増加を招くため、密植条件下では初期防除と登熟初期の予防散布を徹底します。
  • 密植度・栽培様式: 上述のようにやや疎植気味の密度を採用します。田植え時は1穴あたり1~3本植えの浅植えで活着を良くし (稲 作 気 象 台 情 報)、初期成育を揃えます。京都南部の土壌は粘土質が多いため浅植えでも倒伏しにくく、浅植えによって分げつが出やすくなります。密度は1㎡あたり20株前後を目安に、品種の分げつ特性に合わせて調整します(多分げつ型の品種なら少なめ、寡分げつ型なら多めに)。密植と少肥の組み合わせにより早期から過剰な茂りを防ぎ、適度に隙間のある群落を形成して光合成効率と通気性を確保します。中干しのタイミングで過剰分げつがある場合は干し加減を強めにして下葉を枯らし、最終的に穂数400本/㎡以内に収めます (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)。また条間を広め(30㎝程度)に取ることで管理機の走行性を高め、追肥や防除の作業もしやすくします ()。栽培様式としては移植栽培が安定しますが、直播の場合もできるだけ疎播種+条播きとし、生育初期に立ち枯れが起きないよう配慮します。
  • 品種と収穫適期: 上記管理に合わせ、選定した品種の成熟期に応じて適期収穫を行います。たとえば山田錦なら10月中旬、祝なら10月上旬など完熟期を迎えるまで十分に登熟期間を確保します(登熟期間をしっかり取ることで各籾に炭水化物が充実しタンパク質が希釈されます (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ))。猛暑年でタンパク質基準値超過が懸念される場合は、葉色やSPAD値を指標に収穫時期を調整します。 (分野別研究成果情報(水稲) – 新潟県ホームページ)にあるように、出穂後の葉色から玄米タンパク超過リスクを予測し、高タンパクの区画は分けて刈り取るといった工夫も品質管理に有効です。収穫後は乾燥を急激に行わず穏やかに仕上げて(胴割れ防止)、低タンパク高品質米の特長を損なわないようにします ([PDF] 酒造好適米「山田錦」の生産振興 – 山口県ホームページ)。

以上の総合管理により、京都盆地南端の高温多湿な環境下でも水稲の健全な光合成(同化)能力を最大限引き出し、高いデンプン生産による大粒充実米を得つつ、玄米中のタンパク質含有率を低く抑えることが可能になります。適切な水管理で猛暑ストレスと乾燥を防ぎ ()、施肥と密植の工夫で稲一本あたりの余分な窒素を減らしてタンパク質の希釈を図る ()――このようなアプローチが低タンパク良食味米生産の鍵となります。京都の気候を味方につけ、栽培各要素を最適化することで、「光合成最大・タンパク最小」の稲作を実現しましょう。

参考文献・情報源:

コメント

タイトルとURLをコピーしました